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母の最期~②

公開日: : 最終更新日:2021/02/03 母のこと

処置室に通され、何人もの看護師さんがうなだれている母を抱えてベッドに移動させました。

ひとりの看護師さんが、○○さん、○○さん、と何度も母の名前を呼びましたが、母は無反応でした。

担当の医師が、外来の診察室からやってきて、すぐに、心臓マッサージの準備が始まりました。

カーテンが閉められ、看護師さんがわたしのところへやってきて、待合室へ行くように言いました。

しばらくすると、看護師さんがやってきて、「誰か、呼ぶ人がいれば、今のうちに呼んでください」
と言いました。

わたしはひとりっ子だし、父ももういないので、「いません」と言って、そのままその場で待ちました。

20分ぐらいして、担当の医師がわたしのところにやってきて。

「今、心臓マッサージを20分ぐらい続けていますが、まったく無反応なので・・・
心臓マッサージの限界は1時間なので、もし、1時間続けても、このまま無反応なら・・・
覚悟してください」

と言いました。

わたしは、あまりにも突然のできごとに、
「はい」
と言って、涙がボロボロボロッとこぼれ落ちました。

何を考えていたんだろう

いや、何も考えていなかったと思います。

ただただ、茫然としている間に時間がすぎました。

1時間ほどして、担当の医師に呼ばれました。

母のところに行くと、循環器科の病棟の先生なのでしょう。何人もの医師が母を囲んでいました。

母は口からチューブを通され、心臓マッサージを受けていました。

「もう、1時間ぐらい、心臓マッサージを続けていますが、まったく無反応なので・・・
肋骨も折れていると思いますし、これ以上続けると、お母さんも苦しいだけだと思いますので・・・」

と、担当の医師から言われました。

わたしは、黙ってうなずきました。

心臓マッサージが中止されると、心電図の数値が、60,50,40,30,20,10と下がっていき、
0になって、ピーと音をたてました。

担当の医師が時計を確認し、時間を告げました。

まわりを囲んでいた医師たちが、母にむかって、手を合わせました。

わたしは、ただただ茫然として、母を見つめているだけでした。

「検査の結果は前よりよくなってたんですけどね。
BNPの数値もよくなっていて・・・
心臓マッサージをしたとたん、お母さん、すぐに吐血されたんですよね」

母の様子を説明してくれる医師に、

「吐血?」

って、わたしは思わずつぶやきました。

肺に血がたまってたの?

むくみがあったらすぐに病院にきてくださいとは言われてたけど、よくわからなかった。

肺に血がたまってたのなら、息苦しいはずなのに、最近の母は、そんな様子もなく、機嫌も悪くなかった・・・

「肺に血がたまっていたのかもしれませんね。
結局の原因はわからないので、はっきりさせたかったら解剖しますが・・・」

って医師

わたしは、
「いえ、解剖はいいです」

とすぐに答えました。

死因がわかったとしても、母が戻ってくるわけじゃないし、
もし、息苦しさもわからないほど老化していたとしたら、それに気づいてあげれなかった自分を責めることになる。

「わかりました。ずっと調子悪かったですからね。
寿命だったのかもしれませんね」

と医師に言われました。

看護師さんが、母の頭をなでながら、

「ずっとずっと苦しかったよね。
ずっと病気をかかえて、体の自由もきかずに、何年も何年もがんばってきたよね。
もう、がんばらなくってもいいからね。
ゆっくりやすんでね」

と言いました。

その言葉を聞いて、わたしは、肩を震わせて、嗚咽して泣きました。

—つづく—

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